知的財産法 前期第8回
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今回の授業は、進歩性について学びます。
特許法29条2項
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
特許法29条2項には、「容易に発明をすることができたときは・・特許を受けることができない。」とあります。
しかし、何をもって「容易」かは、明確ではなく、解釈によります。
主観的に容易だ、容易でない、と言っても説得力がなく、水掛け論になってしまいます。
法律の解釈ですから、客観的に「容易」か否かを論じる方法を学びましょう。
判断主体=発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者=これを「当業者」と言います。
今回の演習は、消しゴム付き鉛筆。
この発明を「容易」だとする論理
あるいは「容易でない」とする論理を組み立ててください。
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発明の進歩性(定義)
発明の進歩性とは、出願に係る発明について、いわゆる当業者が特許出願時における技術水準から容易に考え出すことができないという発明の困難性の程度をいう(第29条第2項)。
第29条第2項 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
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当該発明が従来技術からみて、どの程度容易か・どの程度進歩していたか
換言すると、当該発明をするのにどの程度困難であったか
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、
発明の進歩性を求める趣旨
新規性はあるが進歩性のない発明をすることは企業の日常活動上必要に応じて容易に行なわれることである。
従って、かかる発明に特許を付与するならば、特許権の乱立により技術活動の自由が束縛され、かえって産業の発達は阻害される。
通常の人が容易に思いつくような発明に対して排他的権利(特許権)を与えることは社会の技術の進歩に役立たないばかりでなく却ってさまたげとなる。
そこで、法は発明の進歩性を特許要件としたのである。
換言すれば、法が進歩性を要求するのは、技術の自然的進歩以上のいわば飛躍的進歩をもたらすためであるといえる。
発明の進歩性の判断手法
進歩性は、複数の引例(通常は2つ)から本願発明が容易に発明できるとされることがほとんどです。
例えば、発明がABCDの構成の場合で、「引例1にABCが記載され、引例2にDが記載されており、引例1と2の組み合わせから容易である」とされることが多い。
この場合、本願発明が引例1と異なること及び引例2と異なることを単に主張しても意味がありません。相違するとの主張は、相違点がある=新規性があるとの主張に止まるからで、進歩性の問題は新規性があることを前提とし、その相違点がどれほど進歩しているかが問われているからです。よって、相違していることをいくら主張しても意味がありません。
引用例との相違点を前提とし、ABCとDとの組み合わせの困難性を論議しなければなりません。
進歩性の判断は、
本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準
を的確に把握した上で、
当業者であればどのようにするか
を常に考慮して、
引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否か
により行う。
論理づけができる場合、進歩性否定し、できない場合、進歩性は否定されない
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創造=既存の知識の組み合わせ
発明=技術の累積=従来技術の組み合わせ
引用発明X=A,B,Cからなる
引用発明Y=Dが記載されている
引用発明X(A,B,C)に引用発明Y(D)を組み合わせることで容易に
発明Zを構成することができるか。
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特許庁審査基準 進歩性
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進歩性の概念を他法との関係で考察してみる。
https://gyazo.com/c67fe8d34dde26d0b631a5db50b5188f
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【A】進歩性が否定される方向に働く要素
主引用発明に副引用発明
を適用する動機付け
(1) 技術分野の関連性・・・ナイフの技術分野とハサミの技術分野の関係性は?
(2) 課題の共通性 ・・・ナイフの課題とハサミの課題の共通性
(3) 作用、機能の共通性・・・ナイフの作用、機能とハサミの作用、機能は共通するか?
(4) 引用発明の内容中の示唆 ・・・引用例が特許文献や論文の場合なので、この例には適用なし。
主引用発明からの設計変更等
(i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択
(ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化
(iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換
(iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用
先行技術の単なる寄せ集め
【B】進歩性が肯定される方向に働く要素
・有利な効果・・組み合わせたことで従来にない有利な効果が見られる場合
・阻害要因・・組み合わせることを阻止するような状況がある場合
例:副引用発明が主引用発明
に適用されると、主引用発明
がその目的に反するものとな
るような場合等
https://gyazo.com/881379fbd5a916b83a37d4b47c8ebd07
実際の事件での、対応例
実際の事件 その1 (実際の事件での拒絶理由対応を学習用に修正したものです)
コンパクト容器の発明につき、出願したところ、以下の拒絶理由通知を受けた。どのように対応したらよいか、検討しなさい。
https://gyazo.com/d0d06008e4dc0a43558c238dcac84ecc
請求の範囲(出願時)
底部20およ周側壁30をそれぞれ有する一対の受皿I、Ⅱを形成し、受皿I、Ⅱの対向連結端にはそれぞれ係合凸部31と係合凹部32とからなる連結用の係合対を双方互い違いに設けると共に、更に前記対向連結端のそれぞれに接続用欠落部Ⅲを形成し、受皿Ⅰ、Ⅱの連結によってそれぞれの接続用欠落部Ⅲ、Ⅲに連なる周側壁30A、30A同士を接続させて連結した単一の間仕切り壁33を形成し、この間仕切り壁33を共有して複数の収納室10を形成しめてなる連結式化粧用コンパクト容器。
拒絶理由通知
本件発明は、引用例1と引用例2から容易に発明をすることができたものと認められるから、特許を受けることができない。仕切り壁を共通にして組み合わせて連結するようなことは当業者が容易になし得ると認められる。
引用例1(左の図) 引用例2(右の図)
https://gyazo.com/02298a8f67c3ff71d8134e041748ef84 https://gyazo.com/4a97c2a0914f78fbb4acfe7b2af85b64
☆対応例:意見書と補正書を提出して対応
補正書
請求の範囲
底部20およ周側壁30をそれぞれ有する一対の受皿I、Ⅱを形成し、受皿I、Ⅱの対向連結端にはそれぞれ係合凸部31と係合凹部32とからなる連結用の係合対を双方互い違いに設けると共に、更に前記対向連結端のそれぞれに接続用欠落部Ⅲを形成し、受皿Ⅰ、Ⅱを連結する際に一方の受皿の係合凸部31を他方の受皿の係合凹部32に係合させると共にそれぞれの接続用欠落部Ⅲ、Ⅲに連なる周側壁30A、30A同士を接続させて連結した単一の間仕切り壁33を形成し、この間仕切り壁33を共有して複数の収納室10を形成しめてなる連結式化粧用コンパクト容器。
意見書
(1)本願考案は、①特許・・・号(引用例1)、②特許・・・号(引用例2)に基づき、特許を受けることができないと認定されました。
しかし、本件発明は、本意見書と同日付けで提出した補正書により請求の範囲を補正したこと、及び、下記の理由により十分登録性があると思料されます。
(2)本件発明の要旨は請求の範囲に記載されているように、「底部20および周側壁30をそれぞれ有する一対の受皿I、Ⅱを形成し、受皿I、Ⅱの対向連結端にはそれぞれ係合凸部31と係合凹部32とからなる連結用の係合対を双方互い違いに設けると共に、更に前記対向連結端のそれぞれに接続用欠落部Ⅲを形成し」たという点、及び、「受皿I、Ⅱを連結する際に一方の受皿の係合凸部31を他方の受皿の係合凹部32に係合させると共にそれぞれの接続用欠落部Ⅲ、Ⅲに連なる周側壁30A、30A同士を接続させて連結した単一の間仕切り壁33を形成し、この間仕切り壁33を共有して複数の収納室10を形成しめてなる」点にあります。
本件発明は、このような構成を採用したことにより、多数の受皿同士を互いに連結しても、隣り合う受皿同士が1つの間仕切り壁を共有する構造となっているから、連結方向の長さ寸法を大幅に短縮することができます。
このように明細書記載の顕著な効果を奏するものです。
(3)これに対して、引用例1には、「中皿11の一側に連結用突設体12を設け、他の側面に連結用嵌入溝14を設け、隣接する中皿11が互いの突設体12を嵌入溝14で相互いに―体に連結している。」が記載されています。
また、引用例2は、「中皿1の2つの側壁3、4に溝条7、8を設け、隣り合う側壁5、6に突条9、10を設けて、溝条7、8を突条9、10に嵌合している。」が記載されています。
(4)そこで、本件発明と各引用例に記載された発明の差異を検討します。
(a)引用例1について
引用例1は引用例1の明細書中に記載されているように、まずは一般の容器と同様に中皿に底部と周側壁とを有し、中皿としての体裁をなしています。
そして、この中皿としての体裁を消失させないままで、中皿の一側に連結用突設体12を設け、他の側面に連結用嵌入溝14を設け、隣接する中皿11が互いの突設体12を嵌入溝14で相互に一体に連結しています。
これに対して、本件発明では、底部20および周側壁30をそれぞれに有する一対の受皿I、Ⅱの対向連結端に連結用の係合対を双方互い違いに設け、対向連結端のそれぞれに接続用欠落部Ⅲを形成しています。すなわち、周側壁30の一部を欠落させることで、まずは受皿Ⅲとしての体裁を消失させています。
次に、受皿I、Ⅱを連結させる際にそれぞれの接続用欠落部Ⅲ、接続用欠落部Ⅲに連なる周側壁30A、30A同士を接続させて連結した単一の間仕切り壁33を形成し、間仕切り壁33を共有して複数の収納室10を形成しています。すなわち、これらを組み合わせることで受皿としての体裁を回復しています。
これらの過程に本件発明の構成の困難性があり、また、この構成は引用例1には何ら示されていない。そして、この構成の困難性から周側壁30Aの厚さの個数分に相当する寸法だけ短縮できるという本件発明独自の効果を有しております。
従って、引用例1により本件発明を想到することができないのは明らかです。
(a)引用例2について
引用例2も引用例1と同様に中皿に底部と周側壁を有し、中皿としての体裁をなしています。
そして、この中皿としての体裁を消失させないままで、溝条7、8を突条9、10に嵌合していき、中皿を連結させています。
これに対して、本件発明は引用例2には示されていない独自の構成及び効果を有しています。
従って、引用例2により本件発明を想到することができないのは明らかです。
(c)引用例1~2の組合せについて (ここが重要)
本件発明の構成及び効果については、上記引用例1及び引用例2にも何ら示されておりません。欠落部を設けて受皿の体裁を消失せしめ、次に一方の欠落部に他方の周側壁を巌合することにより受皿の体裁を回復せしめるという示唆を、両引用例から得ることは当業者にとって自明の範囲を越えるもので、両者を組み合わせることにあたって大きな阻害要因となっております。
従って、引用例1及び引用例2の組合せによっても本件発明を想到することができないのは明らかです。
また、「仕切り壁を共通にして組み合わせて連結するようなことは当業者が容易になし得ると認められる。」と御指摘されましたが、この点についての引用例を何ら具体的に示さずして、上記考案の過程に構成の困難性を「容易」とは認定できないものであります。
(5)以上述べたように、本件発明は、引用例1及び引用例2の記載事項に基いて、いわゆる当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないと思料されます。
実際の事件
切り餅事件での最初の拒絶理由通知
出願当初の特許請求の範囲
【請求項1】 角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に、周方向に長さ を有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたこと を特徴とする餅。
この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものである。これについて意見があれば、 この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出して下さい。
理由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布さ れた下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった 発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する 者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によ り特許を受けることができない。
・請求項 ・引用文献等 1 ・備考
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 1-8
引用文献1には、包装された餅体であって複数個の餅片に分割可能とする脆弱部を有 するものが記載されており(請求項3)、周囲に周方向に沿って脆弱部が形成されてい る慶事用の菱餅も記載されている(図3)。また「特に、小片状で食したり、薄片状で食したりする場合の餅体に適用することもできる。」との記載もある(発明の詳細な説 明の段落【0006】)。
さらに「脆弱部とは、その部分において餅体を容易に分割できるように形成した部分 をいう。具体的には、切り込み......をいう。」(発明の詳細な説明の段落【0011】) と記載されていることから、引用文献1には周囲に切り込み部が形成されている菱餅が 記載されていると認められる。
引用文献1に記載された発明と本発明を対比すると、引用文献1に記載された発明に おける餅が菱餅であるのに対し、本発明では切餅、丸餅などの小片餅体であることで相 違し、さらに、刊行物1に記載された発明における切り込み部が全周あるいは小分けし た場合には2側面に形成されているのに対し、本発明では切り込み部が周方向に複数配 置されていることで相違する。
しかし、引用文献1に記載された、全周、あるいは小分けした場合に2側面に切り込 み部を有する菱餅を全周に切り込み部を有する切餅に適用すること、あるいは周方向に 複数配置することは、当業者が容易に想到できるものである。
引用文献1には、焼き餅を容易に均一に焼くことができるという記載はないが、周方 向の脆弱部を残して適当に小分けして焼けば、当然に均一に焼くことができることから、 本発明が、当業者の予想し得ない程度の効果を奏するとも認められない。
よって、本発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明する ことができたものである。
引用文献等一覧 1.特開平07-250636号公報
https://gyazo.com/2d27f567cfb719a1a84faa2a15d2021d https://gyazo.com/1863bb66ea86680275216ddf7614e963
----------------------------------- 先行技術文献調査結果の記録
・調査した分野 IPC第7版 A23L1/10-1/105 DB名
・先行技術文献 特開2004-097063号公報 特開2000-023629号公報
この先行技術文献調査結果の記録は、拒絶理由を構成するものではない。
演習:上記の進歩性判断手法に基づき、意見書を完成させてみよう
https://gyazo.com/a5474415c2ba14120d52633a1ab5a29d